画家 設樂 雅美 インタビュー〈中編〉

日本画家の設樂雅美さんに福福堂の編集部がインタビューをしました。さっそくインタービュー〈中編〉をお楽しみください!

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画家 設樂 雅美 インタビュー〈中編〉

初個展での挫折

銀座で開いた初個展

――上京してからはどのような活動をされていたのでしょうか。

 はい。上京してすぐに池袋にある美大予備校の中にある画材店で働きました。そこで働いている人たちは皆んな画家の卵みたいな人たちで、働きながら絵を描いていました。皆んな私と同じ境遇でしたから絵の話もできて楽しかったです。
 24歳の頃にそこで働きながら、ポートフォリオ(作品集)を持って画廊をまわりました。

挫折しても3年続けた個展

 ようやく展示させてもらえる画廊を見つけて、そこで初個展ができました。しかし1枚も売れませんでした。
 今考えると作品も未熟すぎて、よくやったなあと思います。
 それでも『活動し続けることが大事だ』と思ったので、約2年おきに銀座の画廊で個展を続けました。

杉の木からの電話

――その頃はどのような作品を描かれていたのでしょう。

 その頃もそうですが、大学のころから今にいたるまでずっと木を描いていています。いまと変わらないですよ。あとは、山形の自然の風景とかです。それが私にとって身近な題材なのです。

凍える手でも描かずにはいられなかった。月山へはスケッチブックを片手によく取材に訪れた。

 山形に月山(がっさん)という標高が高く5月にスキーができるような雪深い山があります。そこへスケッチブックを持って出掛けました。ブナやケヤキの木をよくスケッチしました。

実家から見える月山の山影。5月でもスキーができるほど雪深い。

 地上は天気が良い日でも山の上で雪が降ることがあります。車がスリップしてしまい、危うく雪山に1人取り残されてしまうなんてこともありました。

月山のブナの木の根っこを描いた『とどまる』 F15号 2007年

 私が好んで描いてきた題材に『木の根っこ』があります。
 月山のような本当に雪深い場所です。木はすごく寒そうなのですが、根っこをはれる場所を選べない。山形育ちの私は『木の根っこ』が耐え忍ぶ姿に親近感を覚えます。神秘的なものというよりは『おじいちゃん』みたいな魅力ですね。

『とどまる』のモデルとなった木

――おじいちゃん!?

 親戚みたいな近い存在ですね。静かに立っている、いろんなことを教えてくれる存在。安心感と親近感、あたたかみを感じます。
 実家の前に山があるんですがその山に大きな杉の木が1本あるんです。杉の木は幾らでもあるんですが、何故かその1本だけすごく好きだったのです。家の窓とかからも見えるんですが、何か悲しいことがあった時、その杉の木に話しかけていた事を思い出しました(笑)

――へえ。どのようなお話をしていたんですか?

 友達に話すような事とかですね。
 『なんで上手くいかないんだろう』とか、『どうすればよかったのかな?』とか。親しい友達に話すようなことをその木に話しかけていました。そうしているとその杉の木から電話のベルの音が聞こえるときがあって。

――『リンリン』みたいな?

 はい。凄く不思議なんですが木とのテレパシーみたいなことを交わすことがありました。話しかけたことに対して何か返ってくることはないのですが。
 木は私の作品のテーマにもなっています。木から大きなギフトを貰っています。

いつも話しかけていた杉の木

『自分ができることを一生懸命やればいいんだよ』

 社会人になって2年目の時に東日本大震災があった時、私は関東にいました。東北があんな感じになってしまって、こう絵を描く意味があるのかなみたいに思い悩みました。
 なにかの形で貢献できることがないかと思い、大学の友人と3人でチャリティー展を企画しました。
 その時はいつも描いているものと違うものを作ろうということになり、紙粘土で小さい家を1つ1つ作りました。家には光を灯しました。仕事から帰ると夜な夜なその小さな家を作っていました。

仕事を終え帰宅してから夜な夜な作った家

 展示を『企画する』という経験も初めてでした。
 展示自体は1週間なんですけど、3ヶ月おきに開催しました。最初東京で、3ヶ月後に岩手、その後宮城という形で巡回しました。岩手と宮城はホテルに泊まってのチャリティー展でした。
 巡回展で訪れた町で被災された方から『描く意味とか深く考えずにただ自分ができることを一生懸命やればいいんだよ』と言われ、逆に私がとても励まされました。それが今でも心に残っています。

チャリティー展で作ったパンフレット

――心に残るエピソードですね。

 その時に作った紙粘土の家はいまでも1つ自分で持っています。

(インタビュアー 福福堂編集部)

→インタビュー後半へ続く 

設樂雅美さんのプロフィール

設樂雅美 MASAMI SHITARA

1984年 山形県天童市生まれ
2009年 東北芸術工科大学大学院 芸術文化専攻日本画研究領域 修了

◆展示歴◆ 

2012年 グループ展「北斗七星」展(アートスペース羅針盤/東京)  
2012年 3人展「あしたへの手紙」展(gallery re:tail/東京) 
2012年 5月(遠野蔵の道ギャラリー/岩手)、6月(ビルド・スペース/宮城)巡回。 
2012年 グループ展 第1回「飛の会」(佐藤美術館/東京)
2015年 グループ展 第2回「飛の会」(井上画廊、KAMIYA‐ART/東京)
2019年 「いまここを生きるアーティスト2019年」(ギャラリー枝香庵/東京)13、15、`17年参加                                                  2019年 グループ展「アート関ヶ原」(福屋八丁堀本店/広島)
2020年 グループ展「ネオナイーブ派」展(阪神梅田本店/大阪)
2020年 「EGC」展 (阪神梅田本店/大阪)
2021年 「EGCセレクト」展 (阪神梅田本店/大阪)
2021年 「EGC」展 (福屋八丁堀本店/広島)
2021年 「大EGC」展(ヒルトピア・アートスクエア/東京)
2021年 二人展 「設樂雅美・松尾彩加 若手二人展~ひかり、木漏れ日と雫~」(福屋八丁堀本店/広島)
2022年 「EGC」展(福屋八丁堀本店/広島)
2022年 「大EGC展」(阪神梅田本店/大阪)

◆個展◆

2010年 個展「設樂雅美展」 (銀座ゆう画廊/東京)
2011年 個展「設樂雅美展」 (銀座OギャラリーUP・S/東京)
2013年 個展「設樂雅美展」 (柴田悦子画廊/東京)
2022年 個展 「設樂雅美日本画展~木々のさざめき~」 (山口井筒屋店/山口)
2022年 個展 「設樂雅美日本画展~風のさざめき~」 (小倉井筒屋店/福岡)

◆入選歴◆

2006年 第33回創画展 入選 (東京都美術館/東京)07、11年入選
2008年 第34回春季創画展 入選 (日本橋高島屋/東京)`10年入選
2008年 第26回上野の森美術大賞展 入選 (上野の森美術館)

作品解説「夕日色の街並み」 

「夕日色の街並み」

設樂雅美 F6号

日本画

人気の『埼玉の街並みシリーズ』からの1作品。埼玉県の秩父の山から見下ろした街並の風景。夕日で木々が照らされ街並が赤く染まる様子が描かれている。温かい飲み物を片手に飲んでいる時のような、ホット一息できる作品だ。
「秩父の街並みはどこか故郷山形の街並みと似ていました」
と作者は語っている。作者の描く風景画は、普遍性を持った風景画である。見る者が行ったことない景色でも不思議とどこか懐かしさを感じさせてくれる。

(福福堂)

設樂雅美さんの展覧会情報

設樂雅美 日本画展
~実りの物語~

会期 2023年10月25日(水)~31日(火)
[各日午後7時終了/最終日午後5時終了]
会場 伊勢丹浦和展 7F プチギャラリー

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